コーチングは、管理者研修の一環として部下育成や組織開発といった目的で2000年代初めから日本では拡がり、多くの企業が取り入れています。従来の日本型、メンバーシップ型の働き方では、指揮命令系統が上から下へ、言われたことを確実に遂行することが重視され、特定の業務、個人の能力よりも組織の一員としての振る舞いが求められることにより、社会情勢の変化にそぐわない弊害も語られるようになっています。ジョブ型に代表されるような働き方も注目されている中、メンバーシップ型、ジョブ型でも個人の能力の発揮が組織の成果につながるという軸をぶらさず、人財育成戦略や諸施策を考えるべきです。
研修で部下の目標達成を支援する手法としてコーチングスキルを学べば、すぐに部下の成長や組織活性化の効果が出てくるわけではありません。コーチングを実践しても、うまく機能しない経験もあるのではないでしょうか。本記事では、人財育成でコーチングを効果的に活用するポイント、について解説します。
コーチングの歴史とコーチの基本姿勢
コーチングは、ヒューマンポテンシャル運動から生じた自己啓発セミナーをルーツとし、そこからスポーツ分野、ビジネス分野に広がってきました。日本では組織開発のひとつの手法として活用されていますが、海外では人生をより良くするためにライフコーチと呼ばれる人をつけるなど個人に着目しているのが日本との大きな違いです。
コーチングとメンタリングは、ビジネスの世界では同じような意味で捉えられていますが、明確な違いがあります。メンタリングは経験豊富な年長者が知識や経験を年下の者に伝えるもので、上下関係があり、広義には、コーチングはメンタリングの一部であるとも言われています。
また、コーチングとカウンセリングも混同されています。コーチングは精神的な成長は伴うものの、カウンセリングは精神衛生の治療が目的であり、コンサルティングのように解決策を提示するのではなく、コーチングはクライアント(相手)が目標を達成することを助ける「支援」が主な目的です。
コーチとしての基本姿勢は、「人は問題や課題を解決する能力を持ち、解決するための答えは相手の中にあり、その能力や答えを引き出す役割であること」を基とし、自身のポリシーや判断は脇に置き、クライアントが考え動くためのプロセスをサポートすることに徹します。
コーチングには3つの原則があります。
①双方向(インタラクティブ)
クライアントとコーチが一方通行ではなく、話す、聴くという双方向でコミュニケーションを取り、アイデアを出し合い、話し合うプロセスを重視します。目標達成に向け課題を抽出するだけではなく、解決に向けた行動を起こし、その結果がどうだったか、次に改善すべきところはどこか、とクライアント本人が自律的にPDCAサイクルを回すためにアイデアを出すことをサポートします。
②個別対応(テーラーメイド)
従来の人財育成では、上司が部下全員に対して同じコミュニケーションで指導するのが一般的でした。しかし、価値観や考え方、行動パターンや物事の受け止め方など一人ひとり違うため、、同じように教えても必ずしも同じような結果が得られなくなっています。またコーチングには、「話を聴き、質問を繰り返し、承認して、ソフトに対応する」といったコーチングスキルのひとつである「聴く」ことや「質問する」ことに着目されているがゆえの誤解があります。もちろん相手を尊重し、認めることは大切ですが、より重要なことはクライアントの受け止め方や行動パターンを冷静に観察しながら、個別に対応することが求められます。
③現在進行形(オンゴーイング)
コーチングを一度受けたからといって、クライアントがすぐに課題を解決し、目標を達成できるようにはなりません。継続して働きかけることで徐々にパフォーマンスを向上させていくことが必要です。
行動パターンが変わるには時間がかかります。実践⇒フィードバック⇒結果の確認・改善⇒実践⇒フィードバック、という行動変容のサイクルを現在進行形(オンゴーイング)で関わりながら、少しずつ、着実な成長、行動の変化を促していく継続的な育成手法がコーチングです。
コーチングが機能する人、しない人
この3原則をベースにしながら、ある目標に向かって「質問」や「聴く」などのスキルを用いて、コーチングを行います。特に人財育成におけるコーチングで重要なことは、目標を明確にしておくことです。コーチングを導入して、何となく部下育成や組織の力を上げていこうという考え方では決してうまくはいかないでしょう。会社が何を求めているかを踏まえて、その目標を達成するためにコーチングを活用していくことが大前提となるのです。
では、全ての部下にコーチングは機能するのでしょうか。
例えば、部下やクライアントが必要十分な知識・ノウハウの指導(ティーチング)を受けていない状態でコーチングを行うと、それは相手への支援ではなく、わからない・知らないことをなぜできないのか、なぜわからないのかと質問ではなく詰問する行為になりかねず、相手を傷つけてしまう可能性が出てきます。コーチングスキルは手軽で簡単な「聴く」「質問」スキルと考え、基本姿勢や3原則を無視し、コーチングを行い、相手をより混乱させてしまうこともあります。コーチングが失敗で、部下は成長できなかったと結論づけるのは、コーチング導入の目的が不明確、コーチの経験不足などが原因であって、クライアントの問題ではありません。
個別対応の原則からも部下はどの成長段階であるか、意欲や能力の面でも一人ひとり違います。以下の図のようにコーチングが機能する人、しない人を整理しました。
部下の特性を見極め、成長の支援を行うには、コーチング、ティーチングのどちらが効果を発揮するのか、よく検討して、スキルを使い分けることが大切です。
コーチングに必要な情報は「気にかけ力」で収集する
実際にコーチングを実践するにあたり、一番重要なスキルは、「相手の変化を読み取る力」、情報を収集することです。「聴く」「質問」はコーチングのセッション中に使いますが、クライアントの特性はもちろんセッション前後で何が変化したか、また次のセッションまでにクライアントが何を行い、どう感じているか、をコーチは読み取り、適切なフィードバックを与えます。
1対1で対峙し、コミュニケーションをとっているときは、表情や声のトーン、話す内容で読み取ることができますが、クライアントと四六時中、一緒に行動しているわけではないため、クライアント本人が実践している姿を逐一確認することはできません。例えば、メールや報告書などのドキュメント、周りとの関わり方や仕事の質、成果などクライアントの変化のきざしを発見し、メモを残しておくことは有効です。また、セッション中は「聴く」ことに集中しますが、セッション後、クライアントの状態や気になる点、変化を記録しておきましょう。やみくもに承認を与えるだけでは、相手の気持ちは動かせません。変化の事実や実践の結果を事実として押さえた上で、きちんと伝えることで初めて承認というステップを踏むことができます。
クライアントを気にかける「気にかけ力」がコーチングを効果的に人財育成につなげる最大のポイントではないでしょうか。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今後、コーチングは人財育成、組織の力をアップさせるために欠かせないものとなってくるでしょう。コーチングがうまくいけば、全てOKというわけではありませんが、従来の同じ場所に集まり、成果に向けて協力する働き方から離れた場所で、それぞれが能力を発揮し、共働する働き方に変わりつつある現在、未来を考えたとき、一方的な指導や指示では個人の能力を発揮できず、自らで考え、行動する主体的、創造的な人財を育成することはできません。
デジタルトランスフォーメーションでコミュニケーションの手段、仕事のやり方も大きく変わっていく中で、日本独自のジョブ型といった雇用形態も生まれてくるでしょう。マネージャーはもちろん、人財育成の担当者もコーチングの考え方や手法、そして気にかけ力を駆使して、個人、企業の成長をリンクさせることが求められます。ビジネス、雇用環境が変化する中で、人財育成がより一層、企業の成長のカギを握っています。個人の成長を支援する仕組みをもう一度、考える時期に来ているのかもしれません。
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